私たち<ヒト>の腸内には、多種多様な細菌が生息しており、それらはなんと、数百種600兆個以上。
特に小腸から大腸にかけて、これらの様々な細菌が種類ごとにグループを形成してまとまり、腸の壁面にすんでいます。
顕微鏡で腸の中を覗くと、それらはまるで植物が群生している「お花畑([英] flora)」のようにみえることから、『腸内フローラ』と呼ばれるようになりました。
腸内細菌の種類や数は食事や生活習慣・人種・年齢などにより異なるため、『腸内フローラ』も人それぞれ違います。
目次
動物の体の原点は「腸」
動物の体の中で最初に生まれた臓器はなんでしょう?
心臓でも脳でもありません。
実は腸なんです。
最初は口と腸だけのイソギンチャクのような生物のみから、生き延びる為に腸以外の臓器が次々とできて進化してきたのです。
脳だってそうです。
ヒドラがもしお腹がすけば、餌を取る指令は腸管から触手を動かす神経叢にでるのです。
つまり脳ではなく、腸管がヒドラの司令塔なのです。
指令だけでなく、免疫力にも「腸」は深く関係しています。
腸を中心として口から肛門にいたるまでに続く「腸管」には、体全体の免疫細胞の約7割が集中しているとも言われます。
人間にとって根っこになる腸。
この根っこをいかに改善してあげるかで様々な症状が治るのです。
実際に根っこである腸の状態をよくしてあげることで、花粉でも、目のかゆみでも手足の痛みでも改善されたという報告があるほどです。
腸は「ぬか床」。そのなかで働きまくるのが腸内フローラ
「ぬか床」では「発酵」という現象が起きています。
この「発酵」とは微生物が様々な有機物質を分解、変化させて、人間の体に役立つ物質にしてくれます。
腸内細菌もこの「ぬか床」と同じように「発酵」を行っているのです。
身体に運ばれてきた食べ物を消化酵素だけでは分解しきれなくても、「発酵」により繊維物質やタンパク質、糖質を分解して、体のためになるものに変えるのです。
腸の状態も、発酵の役割を果たす腸内フローラ次第でよくも悪くもなります。
最近よく耳にするビフィズス菌は「善玉菌」の一種で、人が健康になるための物質を生成してくれる菌です。
一方で「悪玉菌」と呼ばれる、ウェルシュ菌、大腸菌などは体内で健康に害を及ぼす活動をする菌です。
この悪玉菌ですが、たとえば腸内で消化しきれないタンパク質を腐敗させて毒素を発生させたりします。
この毒素は、ガンを誘発したり、老化を促進させたりする危険もあります。
「じゃ、悪玉菌が全てなくなれば良いわけ?」
実は、そうではありません。
人間の体にはほどよいバランスが大切なのです。
悪玉菌といえども腸内環境を良好に保たれていれば、悪さをせずに大人しくしているのです。
悪さをするのは、バランスを崩して善玉菌の数が大幅に減った時です。
もっといえば、一説には悪玉菌が良い働きをすることだってあるようなのです。
例えば、善玉菌では腸から追い出せないような病原菌を処理してくれるケースも。
そして、悪玉菌が生み出した代謝物が善玉菌のエサになっているとも言われています。
さらに、善玉菌、悪玉菌のほかに「日和見菌」があります。
性格はまさしく「日和見」でそのときどきで優勢な側につくのが日和見菌です。
健康な腸なら善玉菌が2~3割、悪玉菌が1割程度、日和見菌がその残りを閉めるので、全体の3分の2を占めます。
善玉菌の代表・ビフィズス菌と乳酸菌
ビフィズス菌と乳酸菌といえば、善玉菌の中でも代表格です。
どちらも腸内環境を整えるだけでなく、いくつものビタミンを生成する大切なものです。
ビフィズス菌の役割
ビフィズス菌は成人の腸内フローラのうち約1割を占めています。
ビフィズス菌は乳酸、酢酸などの有機酸を生成して、悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を整えます。
このビフィズス菌が作り出す酢酸には強い殺菌作用があり、整腸にはかかせません。
乳児の時にはもっとも数がおおくなり、母乳で育った乳児などは腸内フローラのほどんどがビフィズス菌、という状態になります。
しかし、年齢を重ねるごとに減少していきます。
乳酸菌の役割
ある一つの菌の名前ではなく、糖を分解して乳酸を作り出す菌全体の総称なのです。
ビフィズス菌が人や動物の腸内に生息しているのに対し、乳酸菌は発酵食品をはじめ、自然界に多く分布しています。
手軽に食べられる、ヨーグルト、チーズ、漬物などの中にも多く含まれています。
彼らは便秘や下痢も改善し、免疫力アップなどの有用性があります。
腸内フローラは外敵から守る「ガードマン」
体の中に侵入してきたウイルスなどの侵入を防ぐ働きをもつ抗体のなんと3分の2は「腸管」で作られるのです!
実は、最大の免疫器官は「腸管」なのです。
大体飲食物には数多くの細胞やウイルスが含まれています。
その感染を防ぐために吸収を避けて便として排出してくれるのです。
さらに、腸内フローラが作り出す乳酸などが、腸内を酸性に傾けることで病原菌の繁殖を防いでいます。
腸内フローラは「自然治癒力」を作る工場
人間の体には外敵から身を守るための「免疫力」と、自分の力で治してしまう「自然治癒力」があります。
糖や資質の代謝を活性化し、余分な成分の吸収をコントロールして、排泄します。
彼らの役割には、血糖値を下げて、糖尿病を予防したり、肥満になりにくい体を作ってくれます。
さらに、腸内細菌はビタミンB1、B2、B6、そして、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ナイアシンというビタミンB群、またビタミンKを合成する機能まで持っています。
腸内フローラの中には、肝臓や腎臓、脳などの働きに関係して、その機能をいかすために働く菌がたくさんいるのです。
人間とともに共存してきた腸内フローラ
人は食物の摂取を通して腸内細菌にエサを与え育てます。
その代償として、腸内細菌も人間が生きる為に必要な栄養の一部を生成したり、腸の中の仁谷とって大事な腸内バランスを整えたりします。
ビタミンB群やビタミンKは、人間の体では作れませんが、腸内フローラならつくれます。
腸内フローラがみんないなくなってしまったら、人間は免疫力も自然治癒力も失ってしまいます。
そして、人間の腸内フローラは人間のためだけに働く、ということもわかってきました。
マウスの腸内細菌を人間に移しても、きちんとは機能しないそうなのです。
腸が人間の心をコントロールしている!
「心の病気」とは一概に心だけの問題ではなく、もっと複雑で難しいものです。
栄養素や脳内物質、それこそ腸内細菌も深く関わっており、まさに体全体の問題なのです。
特に、体の司令塔にもなる「腸」に注目すべきです。
神経伝達物質のセロトニンやドーパミンなどは腸内フローラの働きなしには合成できないのです。
実際に、「うつ」や「パニック障がい」などの症状が出ている方のお腹は、冷えていたり、かたくなっていたり、何らかの変調があるようです。
腸内フローラは一人ひとり違う
腸内細菌の研究が進むにつれて、「腸内フローラは一人ひとりみんな違う」ということが分かってきました。
さらに詳しく研究を進めると、基本となる腸内フローラの組成そのものは、幼少期にきまってから亡くなるまで変わらないそうです。
たとえ家族でも、一卵性双生児でも誰一人として同じ町内フローラはいないのです。
老化防止物質「エクオール」
たとえば、最近話題になっている老化防止に役立つ物質として「エクオール」。
このエクオールは骨粗しょう症や更年期障害の予防効果があるとされています。
そして、大豆イソフラボンをもとに腸内細菌の力によってエクオールを生成するのです。
ところが、そういう腸内細菌は日本人のうち約半分の人しかもっていないそうです。
だからといって、他の腸内細菌でも似たような効果が期待できるので、「私には老化防止は無理」とは思わないでくださいね。
赤ちゃんの腸内フローラが形成される仕組み
幼児期に、腸内の基本ベースが決まるだけに、「赤ちゃん」がどのように腸内フローラを形成していくのかは重要です。
赤ちゃんが生まれる時に母親の産道を通る時に、様々な菌を取り込んでいきます。
自然分娩か帝王切開化によって種類は変わります。
また、それからも母乳栄養かミルクかで変わってきます。
母乳で与えればたくさんの菌と接触しますが、消毒された哺乳瓶では、やはり菌との接触は少なくなってしまいます。
ただ、一般的にいえば赤ちゃんの腸内には生後3~4日くらいで、善玉菌であるビフィズス菌が増えていき、人体に害を及ぼす可能性のある大腸菌などはその100分の1以下に減少していきます。
赤ちゃんの便が黄色っぽく、臭くないのはビフィズス菌優位の腸内環境になっているからです。
どの人も、お母さんから受け継いだビフィズス菌によって腸の健康を守ってもらっているのです。
生活や環境、年齢で腸内フローラは大きく変わる
乳幼児の時期に決まった腸内フローラの組成は変わらないのですが、それぞれの菌が全体に占める割合は年齢を経るごとにドンドン変わっていきます。
乳幼児~離乳食時は、母乳から大人と同じ食事を摂り始めるので、いわゆる日和見菌の勢力がどんどん大きくなります。
最終的には、成人時にビフィズス菌の割合は1~2割程度になります。
さらに、老齢期(60歳以上)を過ぎるとまた大きな変化があります。
それまでになかった、大腸菌やウェルシュ菌などが増え始めるのです。
老齢期では3割程度の人からビフィズス菌がなくなり、8割程度の人がウェルシュ菌を保有するともいわれています。
腸の運動が鈍り、便秘がちになった結果、腸内が悪玉菌優勢になっていくのです。
「腸年齢」を若く保つ=若々しくいられる秘訣なのです。
この記事へのコメントはありません。